うつ病と一言で言っても、色々な種類があることは前述しましたが、今回はうつ病の中でも比較的新しい病気である、『非定型うつ病』についてお話します。
非定型うつ病と定型うつの共通点
非定型うつ病と呼称されるだけあって、定型うつ病と同じような症状があらわれます。
- 意欲がなくなる
- 睡眠障害になる
- 心身ともに疲労感が強まり、体が鉛のように重く感じる
- 集中力や思考力が極端に低下する
非定型うつ病ってどんな病気なの?
非定型うつは『逃避型うつ病』『ディスチミア型うつ病』そして以前紹介した『新型うつ病』の総称です。
非定型うつ病の共通症状は大まかに以下が挙げられます。
- 20代から30代の若年者層に多く発症する
- 職場など嫌気がする環境で症状が悪化するが、ひとたび離れると症状はなくなり、むしろ快活になる
- 自分を責める(自責感)よりも、他人が悪いと考える(他罰的)傾向にある
- うつ病であることを認知し、それによる休職に抵抗がない
非定型うつ病の症状一覧
続いて、それぞれの特徴的症状をみていきましょう。『新型うつ病』に関しては前回触れているので、割愛します。新型うつ病に関してはこちらの記事からどうぞ
→これって甘え!? うつ病とは違う『新型うつ病』の症状と原因
非定型うつ『逃避型うつ病』の症状
逃避型うつの症状です。
- 30歳前後の高学歴で、既婚者や恋人がいる男性が罹患することが圧倒的に多い
- 他人からの評価に過敏で、認めてくれる上司のもとでは、まるで病気など患わっていないかのように張り切り良い成果を上げることもあるが、逆の場合は極端に落胆し仕事に対しての意欲もなく欠勤となりやすい
- 自己愛的でプライドが高く、それが傷つけられることは何よりも耐えがたい
- 抑うつ気分や「死ななければならない」と考える希死念慮があまりみられない
- 転職や退職をせず、休職期間満了まで留まる傾向がある。
周囲との関係
- 病識に乏しく自ら受診することは稀で、上司、妻、恋人、親など身近な人の強い勧めで受診、入院に至る
- 職場(会社)恐怖の症状が出やすく、会社に近づくと不安が強くなり引き返すこともある。また、連休明けや月曜日はよく欠勤をする。
- 倦怠感や疲労がとれず、寝込むことからから欠勤に発展する。
- 出勤日に症状がでるのに反し、休日の朝は早く目覚め外出するなど活発に過ごす
- 他人を押しのけるほどの自己顕示性はないが、プライドを守るのに必死になり余裕を失うことが多々ある
傾向は?
性別や環境によって変化が見られ、女性や肉体労働系の仕事に就いている人は、過食やギャンブル依存が強くなるといった傾向にあります。自分を認めてくれない上司や会社に対し、他責の念を感じることが多いですが、そうかといって上司や会社を追及するほどの精力はありません。
また、他人を押しのけてまでの自己顕示はしませんが、プライドを守ることに必死になり過ぎ、余裕を持てないことが見受けられます。
逃避型うつ病の特徴としてあげたこれらの項目は、今から約30年前に『逃避型抑うつ』を提唱した、広瀬徹也氏が要約したものを微修正したもので、30年以上たった現在でも、アメリカ精神医学会の診断基準として採用されています。
次にディスチミア親和型うつ病について。
非定型うつ『ディスチミア親和型うつ病』の症状
- 20代から30代の若年者層に多く発症する
- 仕事や学業に対して真面目さや熱心さが希薄で、逃走傾向と無力感がみられる
- 自己愛が強く、自身に漠然とした万能感がある
- 衝動的な自傷や軽度の自殺願望がある
- 秩序(ルール)に対して否定的で、行動する際の規範 (手本・模範・方式)に対して抵抗をみせる
- 受診に協力的で、うつ症状の有無に固執する
『ディスチミア親和型うつ病』は、
【うつ状態であると自ら受診し、確かに「うつ状態」が認められるが『定型うつ病』にも『逃避型うつ病』にも当てはまらないため、同一範躊とすることはふさわしくない】
などの理由から、2005年に樽味伸氏によって提唱されたうつです。
『ディスチミア親和型うつ病』は『逃避型うつ病』に比べ、抑制症状よりは回避行動が基本であり、躁状態や躁鬱状態は、病的状態として把握しにくいことが特徴です。
各非定型うつ病の原因
非定型うつの原因を見ていきましょう。
逃避型うつ病
他のうつ病と同じくメカニズムが解明されていないため、はっきりとした原因は解っていません。ですが、「ドグマチール」という薬が治療に効果がみられるため、メカニズムに関して以下の仮説があります。
- 少量のドグマチールを投与するとドーパミン自己受容体を遮断し、それが結果的にドーパミンの分泌を増やすのではないか
- ノルアドレナリン神経にあるドーパミンD2受容体を遮断することで、ノルアドレナリンを増やすのではないか
- エビリファイ(薬名)などと同じく、ドーパミンの部分作動薬としての働きがあり、そのために少量のドグマチールを投与するとドーパミンが増えるのではないか
ディスチミア親和型うつ病
原因はほとんど分かっていませんし、有力な仮説もありません。
そもそも診断基準上はうつ病の一型と位置付けられていますが、上に記載したように、ごく最近判明した疾患ですので、まだ曖昧な要素を多く含んでいます。定型うつ病とあまりに特徴が異なるため、
- パーソナリティの要素が大きいのではないか
- 双極性障害の派生ではないか
- 不安障害の派生ではないのか
など様々な議論があります。
非定型うつ病の治療法
では治療法はどんなものがあるのでしょうか?
逃避型うつ病
「ドグマチール」という薬と「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)系」の薬に効果がみられますが、薬物療法は基本的に不要です。仮に処方されたとしても対症程度にとどめましょう。
しばしば会社から見捨てられているという思いを抱きがちです。これは、職場と関連した「抑うつ状態」であることが考えられます。職場環境で抱えている問題を解決しないことには症状が続くことを伝え、抑うつ状態の原因の一端を自身が引き受けることが重要です。そのうえで、職場のストレスを別の場面でうまく発散出来るかどうかです。
また、会社側で改善できる点がないかをよく話し合い、環境に変化をつけることも大切です。会社は十分対処している、と思えれば他責的になることありません。
職場での挫折体験がある場合には、名誉回復の機会を与えてもらい、自信を回復させることが症状の改善につながります。
ディスチミア親和型うつ病
特効薬はありませんが、抗うつ剤(SSRIなど)や、「MAOI阻害薬」と言うモノアミンを増やす薬がある程度の効果を示すという報告もあります。ですが、従来のうつ病のように良く効くというものでもなく、慢性化して治りにくいことが特徴です。
カウンセリングや認知行動療法といった「考え方を修正していく」精神療法の治療が中心となります。
非定型うつ病患者への接し方
『非定型うつ病』はストレス源に近付くと症状が悪化し、ストレス源から離れている時には症状があらわれず、むしろ快活(躁状態)であることが多い病気です。
けれど若いがために身体は健康で、ストレス源から離れてしまえば元気な状態であり日常生活を送るうえで何の支障もきたさないため、「怠け者」や「甘えている」と勘違いされ、なかなか理解が得られにくい病気です。
『非定型うつ病』は『定型うつ病』と異なる症状を認めますが、脳内異常を原因と考える声からもわかるとおり、甘えではなくれっきとした疾病なのです
- 『非定型うつ病』に対して知識を深め、患者がストレスを感じることのないよう気配りをする
- 「自己中心的」「自分勝手」など突き放した言動は控える
- 本人の持ち味を生かせるよう、上司は「育て直し」を試みる
など、周りの人の協力が必要不可欠です。
非定型うつまとめ
ここまでまとめて感じたことは、どちらの『非定型うつ病』も「元々仕事に対して意欲的ではない」ことが病前の共通性格であることから、人格形成の段階で重要な問題を抱えてしまった人に発症しやすいのではないか、ということです。
「元々仕事に対して異常に意欲的」で『定型うつ病』を発症した筆者は、自身の異常な仕事への熱意は、幼少の頃から見ていた「熱心に働かない父親」への抵抗ではないか、と考えているからです。
自身の経験→【コラム】多忙な仕事〜「うつ病の症状」発症まで
『うつ病』のカテゴリにある病気すべてに言えることと思いますが、今までを振り返り、自分を見つめ直すことが治療の重要な鍵となるのではないでしょうか。by CELICA